エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
話しながら、バッグから取り出した彼のノートを差し出す。伏見くんは丁寧に両手で受け取り、それから私のコメントを確認するため中を開く。
アシスタントふたりのノートにはいつも、小学生向けの某通信講座の先生よろしく、赤ペンで色々なアドバイスを書き込んでいるのだ。
「そういえば花純さん。ここに貼ってあった付箋は……ご覧になりました?」
「付箋?」
私はキョトンとして聞き返す。彼の示したページはきちんとチェックしたはずだが、付箋があった覚えはない。
「ううん、私が見た時にはなにも貼ってなかったよ。なにか大事なことでも書いてあった?」
「い、いえっ。自分用のちょっとしたメモだったので、むしろ貼ったままだったら花純さんに失礼かと心配になって」
勢いよくブンブン首を振って説明する伏見くん。メモ一枚で失礼だなんて、彼は私を師匠と崇めるばかりに、変に気を遣いすぎだ。
「それくらいで腹を立てるほど短気じゃないよ、私
「も、もちろんわかっています。でも、じゃああの付箋はどこに……?」
伏見くんが難しい顔で考え込む。ちょっとしたメモと言いつつ、その行方が気になるらしい。