エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「ハンドクリームは塗らないのか?」
「塗っても焼け石に水って感じですし、匂いが食材に移りそうなので、寝る前くらいですかね。まぁ、皮膚科にかかるほど荒れるわけではないので困ってはいませんが、すべすべの綺麗な手にも少し憧れます」
自分の手をさすりながら、少々感傷的に語る。すると米を洗い終えた彼がちらりと私の手を一瞥した。
「どんなに荒れた手であろうと、お前にはもう嫁ぎ先があるんだからいいだろ」
ぶっきらぼうな言い方だけれど、もしかして司波さんなりにフォローしてくれてる?
私はしばし固まり、相変わらず無表情な彼の横顔を見つめる。その視線に気づいた彼が、若干迷惑そうに顔をしかめる。
「なんだよ」
「いえ、私の勘違いでなければ優しい言葉をかけていただいた気がしたので、珍しいこともあるものだなと」
照れくさくなりながらも胸の内を明かすと、司波さんは私から少し目線を外してぼそりと言った。
「勘違いじゃない」
「えっ?」
どきりとして聞き返したら、「チッ」と舌打ちをされた。