エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
なんだ、やっぱり料理関係か。お母さんってば思わせぶりな言い方して。期待したぶん拍子抜けした。
「ですよね。でも、料理を褒めていただけただけでもうれしいです」
食事を再開しながら、司波さんに微笑みかける。
「だから、早く毎日ここで俺に料理を作れるよう、引っ越して来いって」
「そうですね。食事くらい父に遠慮せずしたいですし」
食事を終え、「ごちそうさま」と手を合わせてから、私は隣の椅子に置いたバッグからスケジュール帳を取り出して開いた。
書き込んである今後一週間ほどの仕事を確認し、顔を上げる。
「日曜日のこどもの日なら時間があります。その日に引越しするのはどうですか? 確か、お客さんが来られるのもその日でしたよね?」
「ああ。昼間の早いうちに引っ越しを済ませて準備をすればちょうどいいな」
「じゃ、その予定で両親に話してみますね」
スケジュール帳の五月五日の欄に【引っ越し】と記すと、それだけで胸がドキドキした。
二十七年間の人生で一度も実家を出たことのなかった私が、いきなり男の人と暮らすなんて、まさに青天の霹靂。
でも、不思議と不安をあまり抱かずにいられるのは、司波さんが今日も私の料理を残さずに食べてくれたからだ。
彼の前に置かれた、ご飯粒のひとつさえ残っていない空の丼を見つめると、私の口もとは自然と綻ぶのだった。