エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
胃袋と心を掴まれて――side時成
「どうした司波。食欲がないのか? まったく減っていないが」
「あー、いえ。食欲はあるんですが……なんかここの定食、味落ちません?」
花純にロコモコ丼を作ってもらった翌日の昼休み。
財務省の庁舎内にある職員食堂で上司とともに昼食を取っていた俺は、食べなれた日替わり定食の味にどうも不満を感じて、食が進まなかった。
「そうか? いつも通りだと思うが」
対面の席で首を傾げながら同じ定食を口にしているのは、俺や柳澤の直属の上司、主計官の雨郡さん。
一八一センチある俺よりもさらに背が高く、学生時代にアメリカンフットボールで鍛えたという分厚い胸板に、清潔感のある短髪がトレードマーク。
真面目な性格や精悍な顔立ちは女性にモテそうな印象なのだが、若干硬派なせいか四十五歳で未だに独身だ。
「わかったぞ。司波お前、惚気ているのだろう」
「はっ?」
「柳澤に聞いたが、見合いした彼女は料理研究家だそうじゃないか。彼女の手料理の味に比べたら、当然こんな定食じゃ満足できないよな」
雨郡さんはしたり顔でひとり頷いているが、俺は否定する。