エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「いえ、別にそういうわけでは……」
「照れなくていい。日曜日に紹介してもらえるのを楽しみにしているぞ」
「はあ」
雨郡さんには見合い話をサラッとしか伝えていないため、彼は俺と花純が極めて順調に交際していると思い込んでいる。
しかし実情は違う。少なくとも花純の方は、俺に恋愛感情なんて抱いていない。
同棲話に乗ったのは、単に料理家としての意地。一緒にいる時に楽しそうな顔をするのは、俺を男友達かなにかと同列に考えているから。
そんなふうに彼女の気持ちを想像していると、自然とため息がこぼれる。
花純の料理はうまい。まだ二度しか食べていないはずなのに、食べ慣れた職員食堂のランチにうんざりするくらいには、彼女の作る料理に胃袋を掴まれている。
そして掴まれているのが胃袋だけならまだしも、彼女自身の存在が、俺の心を掴んで振り回すから厄介だった。
どうしてこんなことになったのか。そもそも、俺たちの出会いは最悪だったはずだ。
見合いは義理で参加したものだったし、俺は結婚にまったく興味がなかったから、わざと花純に嫌われるような言動を繰り返し、早く帰って寝たいとそればかり考えていた。