エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
ところが、彼女は俺の想像以上に確固たるプライドを持った料理家だった。
『私の料理を食べていただけませんか? そうすれば、わかってもらえるはずです。料理には人の心を動かす力があるってことが』
彼女のそんなひと言で、見合いはまさかの延長戦に突入。俺は若干彼女を見る目が変わり、ほんの少しだが興味を引かれた。
とはいえ一介の料理家ごときが、俺が長年積み重ねてきた料理へのネガティブな印象を簡単に変えられるはずがない。料理で人の心は動かない。一ミリたりとも。
幼いころから刷り込まれたその冷めた感情は、大人になっても心の深いところを重く静かに揺蕩っていて、それを取り除くのは誰であろうと不可能。
俺はこれからも一生、料理には無関心だ。半ばあきらめたようにそう思っていた。
しかし花純は俺の冷めた態度にめげることなく料理に集中し、かと思うとソファでうつらうつらしていた俺の耳元で突然ささやいた。
『モツを噛んだ瞬間、ショウガの効いた甘辛い汁がじゅわっ。ホクホクのゴボウに、シャキシャキレンコン、ほんのり甘い人参……ああ、なんて美味しいんだろう。俺の負けだ』