エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
しかし、あれだけ彼女の仕事を馬鹿にした手前負けを認めづらく、うまかったと言い出せないまま口ごもる俺に、花純が言った。
『ダメでしたか……。ごめんなさい、お宅まで押しかけたのに。後片付けを済ませたら、おいとましますね』
違う。帰るな。帰らないでくれ。
心の中で叫んでも、花純に届くはずはない。彼女はそそくさと帰り支度をし、『お邪魔しました』と頭を下げた。
このまま逃がしてたまるか。俺はとっさに立ち上がり、彼女を引き留めた。
彼女の料理は美味しいだけじゃない。うまく説明できないが、まるでオーダーメイドスーツのように、自分にぴったりフィットする料理だった。
女性にも料理にも無頓着だった俺が、ここまで花純に執着したくなるはなぜなのか、もっと彼女の料理を食べて知りたい。そして彼女自身のことも。
たった一品の料理にあっけなく心動かされた俺は、彼女の気持ちを自分に向かせるべく、積極的に動き始めた。