エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 奥様……。なんともくすぐったい響きだ。花純はまだ奥様ではないが、それを初対面の店員に伝えるのもおかしいので、胸をソワソワさせつつも否定はせず話を合わせる。

「服装はわりと女性らしいものが多くて……料理中はピンクのエプロンをよく着けています」
「なるほど。でしたら、今ご覧になっているシンプルなものよりこちらのちょっとファンシーな商品はどうでしょう」

 店員に案内された棚まで移動した俺は、そこに並んだコップや歯ブラシ立てを見てたじたじになった。

 どちらも白い陶器製で、側面にデザインされているのは、嫌でも目に入る大きな赤いハートと、その中心に【LOVE】の文字。

 これは……柳澤のようなデリカシーのない奴がネタとして友人に贈るタイプの商品ではないのか?

「は、派手ですね」
「男性から見たらそうかもしれませんが、女性は結構こういうわかりやすいものが好きですよ。旦那様が内緒でこれを買って洗面台に置いておいたら、奥様はきっと喜ばれます」
「そうでしょうか……」

 趣味がいいとは思えないが、確かにわかりやすい商品ではある。

 俺に対してあまり男を感じていない花純も、これを目にしたらドキッとするだろうか。

< 99 / 233 >

この作品をシェア

pagetop