捨てられ幼女は最強の聖女でした~もふもふ家族に拾われて甘やかされています!~
 風の音がする。それに、虫の声。鳥の鳴き声に葉擦れの音。
 ……ああ、命の音だ。これを聞きながら死ぬのも悪くない。
 なにせ、十年間の幽閉生活の直後だ。
 まともに動くことすら難しく、こんな森の中で生きていけるはずがない。
 森は危険がいっぱいだ。教会にいた頃は、ひとりで入ってはいけないと口酸っぱく言われていたっけ……。
 ――やっと、終わりだ。
 切なくなって、同時に嬉しく思って、けれどもやっぱり哀しい。
 なのに、涙を流すことを忘れた涙腺は、どこまでも無反応だ。
「――ワオーーーン……」
 狼の遠吠えが聞こえる。かなり距離が近そうだ。
 ――狼に食べられるのは構わないけれど、痛くなかったらいいな。
 そんなことを考えていると、段々と眠気が襲ってきた。長時間の移動で疲れてしまったらしい。命の危機に瀕しているというのに、呑気なものだと呆れる。
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