奪って、浬くん






「お、おじゃまします.....」


「はい、どーぞ」


ローテーブルに座った浬くんの隣に、ちょこんと腰かける。


肩と肩が触れあう距離に、心臓が跳ねるのはいつものこと。


「数学だっけ。なこ、ほんと苦手だよね」


「あはは、うんっ。がんばってるつもりなんだけどなぁ~」



数学が苦手なのは、ほんとう。


授業は聞いているつもりだけど、なぜか内容が頭にはいってこないの。


テスト前は、いつもつきっきりで浬くんが教えてくれるから、赤点回避できているのだけど。




「どこ?わかんないとこ、」


教科書を覗きこむように、ぐっと近づいてきた浬くん。


ち、かい.....っ。


「こ、こ。52ページの問3なんだけどね.....」


真っ赤な顔をみられないよう、微妙に視線をずらしながら答える。


バクバク、心臓がうるさい。



「二項定理は、(a+b)n を展開したときの各項の係数は nCk になんの。だから──」



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