奪って、浬くん
♤
「お、おじゃまします.....」
「はい、どーぞ」
ローテーブルに座った浬くんの隣に、ちょこんと腰かける。
肩と肩が触れあう距離に、心臓が跳ねるのはいつものこと。
「数学だっけ。なこ、ほんと苦手だよね」
「あはは、うんっ。がんばってるつもりなんだけどなぁ~」
数学が苦手なのは、ほんとう。
授業は聞いているつもりだけど、なぜか内容が頭にはいってこないの。
テスト前は、いつもつきっきりで浬くんが教えてくれるから、赤点回避できているのだけど。
「どこ?わかんないとこ、」
教科書を覗きこむように、ぐっと近づいてきた浬くん。
ち、かい.....っ。
「こ、こ。52ページの問3なんだけどね.....」
真っ赤な顔をみられないよう、微妙に視線をずらしながら答える。
バクバク、心臓がうるさい。
「二項定理は、(a+b)n を展開したときの各項の係数は nCk になんの。だから──」