拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~
2.宰相閣下は通いまして。
メイス国が宰相、エリアス・ルーヴェルト。その名は、この国において天才の代名詞とまで言われている。
彼はシャルツ王の乳兄弟であり、まだ自身も幼い時分からシャルツに仕え、盛り立ててきた。それはシャルツが王になってからも変わらず、王国最年少で宰相の座に上り詰め、王の右腕として辣腕をふるっている。
そんなエリアス・ルーヴェルトには、一方で『氷の宰相』と裏では呼ばれている。冷たく心は凍え、決して情に流されない。彼の前に立つ者は、その美しくも冷えた眼差しに射抜かれただけで、怖れでその場に凍り付いてしまうとまで言われている――。
そんな宰相閣下の働きぶりを、いち庶民に過ぎないフィアナは当然見たことはない。けれども、そうも噂される彼が、春に満開咲く花のような笑みを浮かべて、しがない町の酒場のカウンターに陣取っているのは、もはや事件と言っても過言ではないだろう。
「フィアナさん!! よかった。今日もお店にいらしたのですね」
きらきらと無駄にイケメンオーラをまき散らして手を振るエリアスに、フィアナは内心舌打ちをする。いらしたも何も、ここは親の店であり、自分の家だ。
このままシカトをすれば、後が面倒くさい。仕方がなく、フィアナはつかつかとエリアスのカウンター越しの向かいに立つと、ドン!と新たなエールを置いてやった。
「どうもこんばんは。何しに来たんですか」
「ふふふ。それはもちろん、フィアナさんの顔が見たくて、こうしてお店に飛んできてしまいました。はい、どうぞ。今日の一輪です。オレンジの薔薇、可愛らしいでしょう?」