拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~

 ――だが、まあ。

 フィアナに対して異様に前のめりというか、隙あらばラブアタックをかましてくることをのぞけば、エリアスはいい客だ。忙しいのは本当らしくあまり長居はしないが、短い間でもきちんと食べ、きちんと飲み、きちんと金を落としていく。

 それに、最初のインパクトがとんでもなかったのが逆によかったのか、「フィアナ狙いのお偉いさん」と面白がられ、この短い期間ですっかり常連の客たちに受け入れられている。……正直、パン屋のオヤジと仕立て屋のオネエと宰相の3人が寄り集まって何を話すことがあるのかフィアナにはさっぱりわからないが、本人たちが楽しそうなのだからよしとしよう。

 それだけじゃない。

「見て見て、あの人よ」

「まあ! 噂以上に素敵な方ね」

 身を寄せてひそひそと囁きあうマダムたちに、フィアナはぐっと拳を握る。ここ数日、これまで顔を出さなかったような奥様方が、グレダの酒場に顔を出すようになったのだ。

 その目的がエリアスにあるのは、火を見るよりも明らかである。やはりイケメンは共有財産。ひとたびイケメンが足繁く通う店だと噂が流れれば、女はきゃっきゃと足を運ぶのだ。

 と、本人も意図していない(というより、気にも留めていない)部分で、エリアスはグレダの酒場の売り上げアップに貢献してくれている。ちょっとばかり言動が残念でツッコミが追い付かないのを我慢すれば、むしろ店にとってはプラスとなる上客だ。
< 15 / 164 >

この作品をシェア

pagetop