拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~
恐れおののいた様子で、マルスが呟く。だが、本当のことなのだから仕方がない。
さて、ひょんなきっかけからエリアス・ルーヴェルトがグレダの酒場に通うようになってから、はや二週間。一国の宰相がこうも毎日街の酒場に入り浸っていて、そろそろ「この国大丈夫か」と心配になる頃合いだが、幸いにしてメイス国は今日も平和である。
そんなこんなで、エリアスはますますグレダの酒場に馴染んでいた。両親はすっかり彼を気に入っているし、常連であるマルスの父や仕立て屋のキュリオに至っては、「そろそろ、あの人が到着する頃じゃないか」などと言い出す始末だ。
(あんなのがいる毎日が普通になるなんて、末恐ろしい……!)
マルスが持ってきてくれたパン数本を胸に抱き、フィアナはよよよと泣き崩れる。だからと言っては何だが、マルスが少々険しい顔をして考え込んでいることに、フィアナは気が付けなった。
「なあ、そのエリアスって奴。どんな男なんだ?」
「そっか。マルスは夜うちの店こないから、会ったことないもんね」
聞かれて初めて、そのことに思い至る。
ここメイス国では、お酒が許されるのは16歳からだ。だから年齢で言えば、フィアナもマルスもお酒を飲むことは問題ない。