拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~
8.お仕事中に会いまして。
(んー。すっかり長居しちゃった)
くぅと両手を突き出し伸びをしながら、フィアナは晴れた昼下がりの大通りを歩いていた。
フィアナはいま、『マダム・キュリオの洋服店』からの帰りだ。昨晩、キュリオが店に上着を忘れていってしまったためだ。どうせ今夜も来るだろうからそのまま預かっていてもよかったのだが、ちょうど店が空いていたこともあり、散歩かわりに届けにいってやったのである。
フィアナの顔を見ると、キュリオは喜んで歓迎してくれた。ドレスを仕立てる手を止めて、弟子に紅茶と焼き菓子を用意させ、遠慮するフィアナに振舞ってくれた。
だが、そこからが長かったのだ。
〝いやーん。そんなの、完全に恋のトライアングルじゃなーい!〟
どこから聞きつけたのか、エリアスとマルスがグレダの酒場で鉢合わせた話をキュリオが持ち出してきたので、事の顛末を色々と話してやったのだ。すると彼は、このように黄色い声(は、でないのだが)をあげて喜んだ。
〝そんなんじゃないですよ。キュリオさんは大袈裟です〟
〝もう、フィアナちゃんったら鈍感っ。私にはエリアスちゃんとマルスちゃんが、恋の火花を散らしているさまが目に浮かぶわー〟
(本当に、そんなんじゃないんだけどなぁ)
はしゃぐキュリオの姿を思い出し、フィアナはうーんと唸った。エリアスはともかくとして、マルスは昔から仲間思いで、近所のこどもたちの兄貴分だった。今回だって、兄妹同然に育ったフィアナのことが心配で、エリアスを敵対視しているに違いない。