渚便り【完】
ふと携帯を確認すればそろそろ自由行動の終了時刻が迫ってきていることに気付かされ、それは同時に伊波との別れを意味した。
ホテル付近までのバスが出ている停留所まで送っていくと気遣ってくれた伊波だけど、万が一二人でいるところを知人に目撃された時のリスクを踏まえて断った。

仮にも双方恋人がいるのだ。
なるだけ危ない橋は渡らない方が良い。まして林崎や作田に目撃されてしまうのはマズい。
本当は一秒でも長く伊波と一緒にいたかったけど、こればかりは慎重にいくべきだと欲を抑えたのだ。


「この坂を降った先のバス停だよ。もうすぐバスが来るはずだから急がないと」


海沿いから離れ、ひと気のない裏路地で伊波は必死に笑顔を作るのに努めているようだった。
こうして伊波の笑顔を見納めだと感じるのは三度目になる。
一度目はお別れ会をした日、二度目はあの海での出来事。
二度あることは三度あるとはよくいったものだが、まさかこんな形で三度目を迎えることになるとは思ってもいなかった。


「間瀬……」


俺がその場に立ち尽くしていると、行動を諭すように俺の名前を呼んだ伊波。
分かっている。行かなきゃいけないことくらい、分かっているんだ。
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