渚便り【完】
「ちょっと気になったんだけどさ」
「んー?」
「昨日言ってた伊波の好きな人って、どんな人なんだよ」


やたら泡の出る飴玉を口の中で転がしながら話を切り出してみる。
こうやって自ら伊波に話題を振るなんてこと今までにあっただろうか。
俺にとってこの質問の答えはそれくらい価値のあるものだった。

なんか、会って早々こんな質問してたら、これを訊くためにわざわざ伊波に会いに来たのバレバレじゃん。でも伊波は伊波で俺を待っていたかのような反応してたし。こればかりは自惚れじゃないよな?

体育座りしている伊波は膝を両腕で囲いながら、あざとい表情でこちらを見てくる。


「えー、気になるの?」
「だから訊いてんじゃん」
「だよね」


納得した伊波は俺から視線を外し、夕陽でキラキラと輝く海を見据えた。
美しいグラデーションを描いているオレンジ色の空に照らされた伊波の表情はどこか切なげだった。
波が打たれる音が俺のざわつく心に拍車をかける。

ややあってゆっくりと瞳を閉じた伊波は、一度深呼吸してから覚悟を決めたように再び瞼をあげると徐に口を開いた。
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