渚便り【完】
「何って、結婚式のよ」


頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受ける。
私は母の言葉に立ちつくし茫然自失とするしかなかった。


「あらぁ、知らなかったの？」


その様子を見ていた母が苦笑いしながら、ほら、と差し出してきた紙には確かにアニキと知らない女性の名前が書かれていた。
女性の名字は既に新垣と記されていて、旧姓はカッコ書きになっている。

……そっか。アニキはあの女の人と結婚するんだ。とうとう夫婦になっちゃうんだ。
あーあ、こんなことなら清水の舞台から飛び降りるつもりで、勇気を出して告白しておけば良かった。

ようやく物事を把握し始めた私を襲ったのは計り知れぬ後悔だった。
ざわめく胸の内で、冷静に何度も自分に言い聞かせる。
現実と向き合わなければいけない時が来た、と。


「ジューンブライドなんて、素敵ねぇ」


母のうっとりとした呟きを背に、私は下唇を噛み締めた。
この時ばかりは流石に笑い飛ばすことができなかった。
こんなの水平線の彼方に吹っ飛ばせばへっちゃら……になる話ではなかったのだ。
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