渚便り【完】
すると不思議そうな顔でこちらを見ていた奥さんと目が合ってしまい、ふんわりとした笑みを向けられた。
その笑顔が私のことを催促しているようにすら見えて、


「おめでとうアニキ。どうか奥さんと末永くお幸せに」


疼く傷口から絞り出したような偽りの言葉だった。
目の奥が熱くなって今にも泣いてしまいそうだったけれど、不自然にならぬようなんとか笑顔を取り繕ってみせる。

「ありがとう」と照れ臭そうに笑ったアニキは、ぽんと私の頭に手を置いて撫でてくれた。
それは私がアニキを好きになるキッカケとなった優しさでもあり、私のことをこんなにも苦しめる優しさでもあった。
ああ、私はアニキのこの笑顔にいつも元気をもらっていたのに、今はどうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。
頭の上からアニキの手が離れていった時、これまでアニキと作ってきた思い出までもがどこかに行ってしまいそうな錯覚に陥った。

帰り際、空気を読めなかったガキな私は、ロクな挨拶もせずにさっさと式場を出た。
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