渚便り【完】
転入先の中学校で、私はサッカー部へは入部しなかった。
他に女子部員がいないから。1年で沖縄に帰る予定があるから。適当な理由を並べたけど、本心はアニキと縁のあるサッカーから離れる時間も必要かもしれないと考えたからだ。
両親は私がサッカーが好きなことをよくわかっていたから、学校外にある女子のサッカー同好会に入ることも提案してくれたけど、当然私はそれも断った。


そんなわけで沖縄にいた頃サッカーばかりしていた私は、茨城に来たのを機にすっかり平日の夕方や休日の時間を持て余す生活をしていた。
とてもノリの良い新しいクラスメイトのお陰で、学校生活は満足しているほどに楽しい。
友達もたくさんできたし、休日に一緒に遊ぶことだってある。

かと言って、案の定アニキのことをキッパリと忘れられるはずもなくて。
本能の赴くまま頻繁に海の見える場所を訪れていた私は、未練がましくも沖縄で過ごした時の記憶を巡らせていたのだ。
海沿いにあるお気に入りのスポットを見つけて以来、高頻度で足を運び、近くの駄菓子屋で購入したお菓子を食べながら水平線や夕陽を眺めたり。
たまに気が向いたらサッカーボールを持ってきて、一人で壁蹴りをしたり。
昔アニキと似たようなことをしていたっけなぁ、なんてぼんやりと考えたり。
結局アニキへの想いと決別できないまま、そんな日々を送っていた。
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