渚便り【完】



「あー、泣いたのなんて久し振りだったからスッキリした!」


ひとしきり静かに泣いていた伊波だけど、次に顔を上げたのと同時に発した声にはいつもの溌剌さが戻ってきていた。
みっともないところ見せちゃったね、と苦笑いする伊波。
沈みかけの夕陽に照らされたその頬には、微かに涙の跡が残っている。

気まずいムードを生み出さないようにするためには、これからどんな言動を起こせば良いのだろうか。
肝心なところでも言い淀む情けない俺の隣で、伊波は何やら作業に移っていた。


「よし!これでオッケー!」


四つ折りにした手紙を昨日まで金平糖が入っていた小瓶に入れ、コルクの蓋をするなり満足気に笑った伊波は、勢いよく立ち上がり腕を振りかざしたかと思いきや、案の定その小瓶を海に向かって放り投げた。
波打つ音に紛れて、ポチャンと気の抜けるような音がした。


「アニキに届くわけ、ないか」


今伊波が行ったのは所謂ボトルメールというやつだろう。
漫画とかで無人島なんかに漂流した時、助けを求める手段の一つとして書かれたりするアレだ。
小学生の子供達に夢を与えることを目的としてイベントを開催したという内容の番組も、前にテレビで見かけたっけ。
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