渚便り【完】
「やべ!」


咄嗟に肘を伸ばして両手を組み、アンダーハンドパスで受け止める。
しかしボールは予想外の方向へ返り、そのまま斜め前で構えていた伊波の頭に直撃した。


「あいたッ!?」


頭を抱えてその場にうずくまった伊波に、辺りは一瞬静まり返ったあとに騒然としだした。
バウンドしたボールが俺の足元へ転がってくる。


「わ、わりぃ……伊波、大丈夫か?」


幾分遅れて事態を把握した俺の胸には、とてつもない罪悪感が押し寄せてきた。
おずおずと伊波に近付いて謝罪すると、


「へーきへーき!こんな痛み水平線の彼方に吹っ飛ばせばへっちゃらさー!」


白い歯を覗かせてニカッと笑った伊波は元気よく立ち上がった。
安堵する一同に伊波は笑顔のまま激励の声をかける。


「なんくるないさー!みんな頑張っていこうよ!」


“なんくるないさ”とは伊波の出身地である沖縄の方言で、人事を尽くして天命を待つということわざの意味合いをもつらしい。
正直そう言われても俺はよくわからなかったが、ざっくりと言えば要するに“なんとかなる”という意味だと後から伊波が友人に説明しているのを小耳に挟んだ。
< 6 / 110 >

この作品をシェア

pagetop