渚便り【完】



そうして部活を終えた俺は、久し振りにやってきたテトラポッドの上で、衣服の間を吹き抜ける潮風を感じながら一人佇んでいた。
学校周辺より幾分涼しげに感じられるこの場所には、やはり居心地の良さを感じられる。

当たり前だけど、伊波の姿はなかった。
緊張のあまりだんまりの俺に、満面に笑みをたたえて駄菓子を差し出してくる伊波はもうここにはいないのだ。
鮮明に思い出せる伊波とのやり取りに、鬱屈した想いが噴水のように湧き出てくる。
俺はその情の波に飲まれて、どうかしてしまいそうだった。

仰ぎ見た空では数羽の鳥が翼を広げてじゃれ合っていた。
まるで俺を嘲笑うかのように高い鳴き声を上げている。
その鳥達からふと視線を斜め下にずらして目に映った向こうの浜辺に、太陽の光を受けてキラリと光る何かを見つけた。
あれはもしかしたら見覚えのある物かもしれない。はっきりと見えたわけじゃないけどなんだか胸騒ぎがする。
少しだけ目を見開いた俺は瞬時に立ち上がり、知らず知らずのうちに浜辺へ走りだしていた。


「……っ、やっぱり」


俺の記憶力と目に狂いは無かった。
砂浜に落ちていたのは間違いなくあの金平糖の小瓶だったのだ。
中には折り畳まれた紙が入っている。

しかし波に打ち上げられたにしてはどうも不自然な位置に置いてある。
少なくとも今見る限り、波はここまで押し寄せてきていないのだ。
もしかしてあのあと誰かの手に触れてしまったのだろうか。
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