渚便り【完】
「ねえ、今あの二人から聞いた。隆也今日別行動するんだって?」


あの二人とは言わずとも林崎と作田のことだろう。先手を打たれてしまった。
そして彼女はいつもより声のトーンに活気がない。どこか不機嫌な気もする。当然と言えば当然か。


「あー、どうしても会いたい人がいるんだ」
「親戚……なんでしょ?」
「ああ。急に連絡きちゃってさ」


嫌な間が空く。
突発的にでっちあげたことだから、もし親戚の詳細とか証拠とか求められたらやばい。
証拠として親戚と写真撮ってきて、とか事後になることならなんとでも誤魔化せるかもしれないけど、この段階で今親戚に電話してなんて要求されたら詰む。
危機感が薄くて無計画な自分に嫌気が刺し、周囲の雑音が胸をざわつかせる。


「残念だけど仕方ないかぁ。そっちはそっちで楽しんできてよね」


しかし俺の懸念を拭うかのように、複雑そうな笑顔を作った彼女には胸が痛んだ。
あまりにも聞き分けが良いものだから、もしかして何かを察しているのかと内心焦ったが、俺は彼女になるだけ自然を装って微笑み返す。
彼女が向こうの女子達の輪に戻ったのを確認してから席を立とうとしたら、林崎と作田が南国のフルーツを山盛りにした皿を手に帰ってきた。朝から食欲旺盛な奴らだ。

俺なんてご飯一杯だけで足りたのに。
というのも別なことで胸がいっぱいであるせいに違いない。
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