渚便り【完】

それはきっと涙の味

俺と伊波はひと気の無い海を訪れていた。
行為が済んでから再び思い出話に花を咲かせていたら、急に伊波が海に行こうと言い出したのがキッカケである。

海と言えば俺達にとって縁のある場所だ。
二人で外を歩くのにはいささか不安が付きまとったが、人通りの少ない道を選び遠回りして辿り着いた、伊波にとっての穴場である場所から見える海を見て、来て正解だったと考えを改めさせられた。
歩いているうちに日が沈みかけてはいたが、やはり黄昏時の海は芸術的だ。
地元の海よりも遥かに綺麗な景色には心を奪われそうになった。


「さて問題です。私達が海に来てやることと言えば?」


出し抜けな伊波の質問に俺は思考を巡らす。
砂の城を作るなんて職人技に挑戦するとか、こんな時間だけど海水浴とか、まさか釣りとか?
いくつか候補が浮かんだがどれもしっくりこない。
となれば駄菓子を食いながら談笑か?

そう答えてみたら、伊波は「ブッブー」と指でバツ印を作ったあと、肩にかけていたバッグの中から何かを取り出した。
ペンと紙と、そしてひとつの小瓶だった。
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