【完】黒薔薇の渇愛
「ーーッ!?さくらぎ……!!」
ふと視界に入った光景に、思わず桜木の名前を叫ぶ。
さっきまでピクリとも動こうとしなかった奏子が
ポケットから何かを取り出した瞬間。
私との話に夢中だった桜木にできた、一瞬の隙。
背中を向けたままの桜木に、奏子は何処からともなく入ってきた月の光で手に持つナイフを輝かせ、鬼の様な形相で一直線に向かってくる。
私は掴んだままの桜木の手を思いっきり引っ張って、桜木を隠すように自分の横に移動させると。
一直線しか見ていない奏子の目が、的が入れ替わった私を捉え、そのまま私に向かってナイフを振り下ろす。
「……っ」
ぎゅっと目を瞑って拳を握ると、手に出来た傷口に自分の爪が入って痛いはずなのに。
それどころではない状況に痛みすら感じない。
ーーガンッ!!と何かを弾く音が倉庫に響き渡る。
全然やってこない痛みに、恐る恐る目を開けると。
こんどはグサッと、目の前に降ってきたナイフが床に刺さって
声にならない悲鳴をあげた。