【完】黒薔薇の渇愛
「あ……ぶっな……っ。
天音ちゃん、怪我は?」
「……なっ、なっ」
「うん、『ない』ね。
無理して喋らなくていいよ、伝わったから」
危機的状況でさえ桜木はニッコリと笑う。
狙われたのは命なのに。
そんなことどうでもよさそうに、桜木は目を細め、奏子を睨んだ。
「今、俺のこと殺すつもりだった?」
「あっ、……いや」
ぶつけるはずの怒りが散り、完全に正気を取り戻した奏子は百面相にこんどは怯えた顔を見せる。
完全にお遊びでは済まされなくなってしまった事態に、もう桜木を止めようがない。
目を逸らして、できるだけ……奏子が苦しむ声を聞かないようにと耳を塞いだ。
けど。
「……」
くるりと桜木が、奏子から目を離し、私の前にやってくる。
「天音ちゃん、本当に怪我してないんだろうね?」
「してな……っ」
「そう。ならいいけど。
……俺まで助けようとするんだから、ほんっと甘い奴。
やっぱ理解できない」