【完】黒薔薇の渇愛
喉が渇いて、声がでない。
声帯を上手く動かせないことにもどかしさを感じながら、涙が頬を滑った。
たすけ……て。
光が見えない。
窓から差し込む月明かりはこんなにも綺麗なのに。
倉庫の隅は真っ暗で、私の体を影が侵す。
二つ目のボタンがプチンと外された。
もう……ダメだ、と。諦めかけたその瞬間。
ギィー……と倉庫の裏の硬いドアから誰かが入ってきた。
「ざんねーん、お楽しみはこれからだったのに。
来ちゃったみたい、ヒーロー君」
言いながら、何事もなかったかの様に立ち上がる桜木。
たっ……助かった。
緩んだ緊張感が、一気に涙を落とさせる。
恐怖から解放されて、放心状態になるもすぐに我に返って、桜木に外されたボタンを閉めていく。