【完】黒薔薇の渇愛
ズカズカとこちらに向かって歩いてくる奏子。
その姿を見て、ひどく安心した。
視界は涙でボヤけているはずなのに、奏子の姿だけをピントの合わない瞳が輝かせてるみたい。
やっぱり奏子が私を見捨てるわけがない。
桜木の言葉に不安になっていた自分がバカみたい。
「奏ーーッ」
桜木の前に立つ奏子を見て、その愛しい人の名前を呼ぼうとした。
なのに。
……どうしてだろう。
現実ってやつは、いつも斜め上をいく。
ずっといじめられてきた私が、急に救われたときのように。
ありえないことが私の世界にはいつも起こるの。
奏子は桜木の前に立つと、急にしゃがみこんで
地べたに手をつけ土下座し始める。
私のことなんか居ない存在の様に扱って
奏子は震える体で、揺れ動く情けない声を出しながら、ただひたすら桜木に向かって「ごめんなさい、すみませんでした」と謝っていた。