【完】黒薔薇の渇愛
「人に優しくできない人は……大嫌いなの、私。」
自分で言ってて、つい鼻で笑ってしまいそうになる。
言った瞬間、乾いた喉から出るその言葉は、嘘なんだってすぐに分かった。
私はただ、桜木に特別扱いされていると勝手に勘違いして。
でも、桜木はハッキリと私のことを好きじゃないと言った。
自分だって桜木にさんざん「嫌々」言ってたくせに
いざ自分が言われると
そのことに腹が立ってしまう、自分勝手な子供だ。
悶々とし、素直になれない私の感情を吐き捨てる様に、桜木はため息を吐いた。
「俺は、君とは違うんだよ天音ちゃん」
桜木がめんどくさそうに前髪をかきあげながら言う。
「誰にでも優しく、なんて。そんな甘いことできないの」
「……」
「優しければそれでいいの?優しくされたら落ちるなら……随分軽い女だね、天音ちゃんは」
「ーーちがっ」
「違わないでしょ。だから岡本奏子君みたいな奴に騙されんだよ、君。
少しは警戒心持って生きたらどう?
……人が人に優しくないのは、いじめられてる君が一番分かってるはずだと思うんだけど」
「……っ」
「そーれーにー。俺は俺が得する奴にしか優しくできない。
そういう人間なの、俺って。
だから俺に、優しさとかくだらないモノ、求めないでくれる?」