【完】黒薔薇の渇愛
危険な者から逃れたいあまり、無意識に頭に浮かんだ彼の名前を呼んだ。
ーーその時
ガシッ!!と腕を掴まれ、血の気が引いていくのを感じる。
ついに捕まってしまった。
体格の違う男から逃れるなんて難しいに決まってる。
でも酷いことされるくらいなら、抗った方がマシだって……心を殺す気にはなれなくて。
だけど一度抗えば、それ相応の酷い目が待ち構えている。
脂汗が拭えない、体が痺れて手が動かない。
男の手の体温だけが、私の体に熱を宿してる。
どうすればいい。
この男から逃げるにはどうしたらいい……っ。
その事ばかりに思考を向けても、うるさい心臓の音が邪魔して上手く考えられないでいると。
「天音ちゃん」
名前を呼ばれ、聞き慣れた声に思わず顔をあげる。
真っ青な顔の視線の先には、私を買った男……ではなく。
なぜか桜木がいた。