【完】黒薔薇の渇愛
見れば、拳を握った桜木が、男の頬を一発殴っていた。
その衝撃に、男は倒れそうになるのを桜木が咄嗟に胸ぐらを掴み、強制的に立たせ目を合わさせる。
男はガクガクと震え、涙目で桜木を見ていた。
「なにしたの」
「……えっ?」
「その子に何したんだって聞いてるんだけど」
静かな怒りは、冷静に見えていつ爆発するか分からないから、余計相手を脅かす。
男は「あっ……あっ……」と、情けない声をあげるだけで、それ以上はなにも言わない。
男の態度にイラついた桜木は、もう一度拳を握り、男の顔面にその手を向けるけど。
私の感情がそれどころではなかった。
思わず桜木の背中に手を伸ばして、槌る様に抱きついてしまう。
そんな私に驚いて、体を捻り振り向いた彼は
男の胸ぐらから手を離してしまう。
男はその隙に逃げてしまった。
でもそんなこと、私にとってはどうでもいい。
ただ、桜木に慰めてもらいたい。
優しくされたいと、彼に乞いてしまう。