【完】黒薔薇の渇愛
やっぱり照れても照れなくても、桜木の余裕ある表情が一番桜木らしくて……一番かっこいいと思ってしまう。
いつからこんなに桜木バカになってしまったんだろう。
きっと……さっき男から助けてくれたのが決め手だ。
この男は何があっても、けっして甘いシチュエーションじゃなくても
私を助けてくれる。
唯一この男には、態度で示さなくても、心の中で甘えられる様な気がした。
名前を呼んだら助けてくれるヒーロー……なんて、桜木には似合わない。
ただピンチの時に偶然現れるくらいが、桜木らしい。
その偶然を運命にすり替えることができれば、きっと……本当の意味で彼に好かれてもらえるのかな。
「あっ、桜木。
ちょっと待ってて」
ピンっと、頭にふと思い浮かぶ、桜木から借りたままのアウター。
土手でくしゃみをした私に、彼が被せてくれたんだっけ……。
寒空の下、桜木の体が冷える前に急いで自分の部屋から借りたアウターが入っている袋を持ってきた。
「別に、また今度でいいのに。こんなの」
袋を受け取りながら、桜木が言う。
「だめだよ……いつ会えるか分からないんだから、会ったときに返さなくちゃ」
「……鈍いねぇ天音ちゃんも」
「えっ?」
「返してもらえなきゃ、それ口実に君に会うことができるってわけでしょ?
会ったとしても、また忘れていけば、またそれを口実に天音ちゃんに会えるってわけ」
「……っ」
「まあ、そんなめんどくさいことしなくても。
俺は勝手に君に会いに行っちゃうけどね~」