【完】黒薔薇の渇愛
クスクスと笑う桜木。
私には気を許していると勘違いしそうな、その柔らかい笑顔に胸が鳴る。
ーーっと、私のときめきを打ち消す様に
桜木の方から『ヴーヴー』とバイブ音が聞こえてくる。
めんどくさそうに彼はポケットから携帯を出すと、指を携帯画面に滑らせ、空気に触れて冷たくなっている液晶を耳に当てた。
「あーい。……えー、めんどくさっ。
まあいいや、分かった。
すぐ向かうから、雪ちゃん達は帰っていいよ。
はーい、ばいばい。」
電話を切った桜木が、私の方に視線を戻す。
「雪羽さん……?」
「そっ。優理花が『俺が来ないと帰らない~』ってガキみたいに駄々こねてるみたい。」
「えっ……!?」
「ん?どーしたの」
「いや……なんでもない」
思わず過剰に反応してしまう。
桜木にワガママ言えるなんて、幼なじみの特権だったりするのかな……?
桜木に土手であんなにひどいこと言われたのに、それでも関係を崩さない優理花さんはすごい。
それに桜木『すぐ向かう』って言ってた。
もうバイバイしなくちゃならないなんて……
やっぱりちょっと寂しい。
雪羽さんから電話が来なきゃ、もっと一緒に居られたのかなとか思っちゃう。