【完】黒薔薇の渇愛
寂しいなんて、素直に言えるはずもないこの口を固く閉じていると。
フワッと何かが私の肩を包み込む。
見ると、さっき返したばかりの桜木のアウターが私を包み込んでいる。
「寒いから、着てな」
桜木は目を細め、言う。
「家、すぐそこなのに……?」
「だって天音ちゃん、俺が居なくなると寂しくなっちゃうでしょー?」
「……っ!?なっ、ならないよ!!」
「うそつけ。言っとくけど、優理花の元に行くのは、雪ちゃんたちに迷惑かけないようにだから」
「……」
「安心していいよ。」
「……別に、気にしてるわけじゃ」
「素直じゃないねー。
嫉妬してるなら嫉妬してるって、そう言えばいいのに」
「なっ……!?」
桜木が私をからかうから
近所迷惑も考えず、嫉妬なんかしてない!と大声で叫ぼうとした。
……けど。
降ってきたひんやりと柔らかいものが、私のおでこに触れ、素直じゃない口を黙らせる。
私の額から桜木の唇が離れたとき
彼は「はーい、おやすみ。……いい夢を」と、固まる私を残して去っていった。