【完】黒薔薇の渇愛
「なに……さっきの」
家のなかに入って、脱ぐに脱げない桜木のアウターを握りしめながら
私は悶々と彼のことを思う。
お風呂に入っている間も
ボーッとしていたせいで、出された食事からはまったく味がしない。
明日の準備を済ませ終えた後も
桜木のことばかりを考えて、どうしようもなく夢現な身をベッドに投げる。
「……桜木の、バカ」
意識している男の唇が、額に当てられ
あんなに優しいキス……絶対にしないような人だと思ってたのに。
あの男は出会ったときから
色んなものを私から奪っていく。
今だってそうだ……。
好きじゃないくせに私に触れるなんて、そんなのズルい。
これじゃあ私ばかりドキドキしてバカみたい。
その日は桜木のおかげで、男に襲われそうになった恐怖心は少しだけ薄れていた。
なにがあっても助けてくれるその男の夢を……目が冴えている私は見れないでいる。