【完】黒薔薇の渇愛






「なに……さっきの」



家のなかに入って、脱ぐに脱げない桜木のアウターを握りしめながら
私は悶々と彼のことを思う。


お風呂に入っている間も
ボーッとしていたせいで、出された食事からはまったく味がしない。

明日の準備を済ませ終えた後も
桜木のことばかりを考えて、どうしようもなく夢現な身をベッドに投げる。



「……桜木の、バカ」


意識している男の唇が、額に当てられ
あんなに優しいキス……絶対にしないような人だと思ってたのに。


あの男は出会ったときから
色んなものを私から奪っていく。


今だってそうだ……。
好きじゃないくせに私に触れるなんて、そんなのズルい。



これじゃあ私ばかりドキドキしてバカみたい。



その日は桜木のおかげで、男に襲われそうになった恐怖心は少しだけ薄れていた。
なにがあっても助けてくれるその男の夢を……目が冴えている私は見れないでいる。








< 191 / 364 >

この作品をシェア

pagetop