【完】黒薔薇の渇愛
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「君になにもする気はないけど……せっかく俺自らが捕まえにいってあげたんだから、ちゃあーんと人質らしく自分の"男"に助けを求めなよ……ねぇ?」
カビ臭い、嫌に響く無機質な倉庫の中で男の声がじっくりと私の恐怖心を煽る。
なんで……こんなことになったんだろう。
数分前まで、私は街を明るく彩るイルミネーションの影に足をつけながら、待ち合わせ場所で彼氏を待っていた。
ただそれだけなのに。
イルミネーションの輝きでできた私の影をかっさらった、ひとりの男。
賑わう街の中で、溶けて消えてしまった私の小さな悲鳴は、まだ喉にひっかかったまま出しきれていない。
気づけば、大きな倉庫の中にいた。
さっきまであったはずのイルミネーションの輝き。
目蓋の裏が、その輝きでまだチカチカしているのに。
ここは何もない静かな、空っぽな、とっても……寂しい場所だった。