【完】黒薔薇の渇愛
「桜木、本当に大丈夫?」
「あー……、ちょっと考え事。
それより天音ちゃん、寒いんだからさっさとお家入ったら?」
「うっ……うん。
あの、今日は本当にありがとうね」
「うん」
やっと口を開いてくれたと思ったら、呆気なく会話は終了。
ダメだ全然物足りない。
「……っ」
桜木が私に背を向ける。
"ありがとう"
本当にそれだけ?
それだけ伝えて終わりでいいの。
まだ、帰したくない。
だって、今バイバイしちゃったら
なんだか一生桜木と会えないような気がするから。
なんでだろう、なんでこんなに不安に思うんだろう。
ーー彼は目の前にいるはずなのに。
「……天音ちゃん?」
「嫌だ」
「……どうしたの」
「まだ……一緒にいたい」
無意識に伸ばした手が後ろから彼を抱き締めていた。
怖いから、寂しいから、ひとりにしないでほしい。
そんな風に"言い訳"できたら楽なのに。
彼に優しくされたいから……甘えたいから、触れたいから。行かないでほしいなんて。
恋人でもないのに、ワガママかな。
それでも、帰したくない、帰したくないの。