【完】黒薔薇の渇愛
「俺なんかに甘えちゃって……本当にどうしたの、天音ちゃん」
「……だって桜木が、どっか行っちゃいそうだったから」
「ハッ、変なこと言うねぇ……。
家に帰るだけじゃん」
「でも……」
それだけじゃないような気がして、桜木を抱き締める力加減ができない。
私の手が震えている。
そのことに、桜木もきっと気づいている。
「ねぇ、天音ちゃん」
「……なに」
「やっぱワガママ聞いてもらっていい?」
「へっ?」
「ダメって言ったのに、ごめんね」
蛇のように巻きついた、私の体なんか一気に離して
桜木はこちらに振り向く。
すると。
ヒヤリと額に冷たい感触。
桜木の唇が私のおでこにくっついて、ゆっくりと離れた瞬間に目が合う。
なにが起きたんだろう。
ポカンと間抜け面を晒していると思う私の顔を見ながら、桜木は眉を下げ申し訳なさそうな目で私を見る。