【完】黒薔薇の渇愛
その桜木の言葉が合図かの様に、外からバイクのエンジン音が次から次へと聞こえてくる。
一体何台のバイクが集まれば、花火のようなドデカイ破裂音にも似たエンジン音が聞こえてくるんだろう。
その音を聞いて、何もかもを察した奏子の顔が青ざめる。
「もう一度聞くけどさー……本当に彼女好きにしちゃっていいの?」
黒のジャケットのポケットからタバコを取り出して火をつける桜木は、顔を横に向けながら煙を吐ききる。
少しめんどそうな桜木と、必死にすがる奏子の温度差は、奏子のみっともなさをより目立たせていた。
「……桜木さんの好きにしてください」
「君、あの子のこと好きなんじゃないのー?」
「いや……つか、ちょっと優しくしてあげただけで好きになるとか信じるとか……重くないですか?」
チラッと私を見ながら、残酷なことを言う奏子。
……目の前にいるのは、本当に"あの"奏子なんだろうか。
私を地獄から救ってくれたときの奏子とは違って
ダサくて、醜くて、自分のことしか考えていない自己中で。
なにより、普通に私を自分の物として扱っているところが怖い。
これじゃあまるで人形だ。
桜木をはじめて見た時、作り物の人形のような生気を感じられない冷たい目をしていると思った。
だけど違う。
本当の人形は私だった。
奏子の人形として、ここまで作り上げてこられたのは私だったんだ。