【完】黒薔薇の渇愛



このまま甘い雰囲気に呑まれるのも悪くないけど。
それだと桜木の本音がいつまで経っても聞けないような気がする。


惜しい彼の体温を手放す様に、私は桜木の胸板を押して、自ら離れた。


桜木は驚いた表情で私を見るけど、こんどは私の世界に彼を引きずりこみたいと、欲が出てきて。

意地でも主導権を握ってみたくなる。



「桜木は……いつも勝手で、ハッキリ言うくせに本当に大事なことは隠してばかりじゃん」


「……」


「今だって、私が好きって言っても何も言ってくれないし……」


「……」


「急に離れていったらと思ったら、こうやって抱き締めるし」


「……」


「桜木となんか関わりたくないって思ってたのに……っ、桜木が私になんか優しくしたいって言うから……」


「……」


「惑わしておいて、こっち側に踏み込んでおいて……今更なかったことになんかしないでよ……っ」



私ばっかり振り回されてバカみたい。


でもそれが心地いいと思ってしまってる時点で、もうきっと戻れない。


戻れないんだよ、桜木。




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