【完】黒薔薇の渇愛
その時。
ジィーと、長ったらしい視線を感じる。
慌てて桜木の唇に自分の手を押し付けて、周りを見ると。
廊下には、目を細めたおばあちゃんが杖をついて私たちを見ている。
「さっ、桜木見られてる……!離れてっ」
「えー、俺は別に見られてもいいけど。」
「私がダメなの……っ!」
「へぇー、俺のこと好きなくせにダメなんだ」
「な……んで今意地悪なこと言うかな!?」
「冗談じゃーん」
私の身長に合わせて前屈みにしていた体を真っ直ぐ伸ばす桜木。
おばあちゃんは見えていなかったのか、何事もなく廊下を歩き始める。
ホッと胸を撫で下ろして、口を開く。
「とりあえず、お兄ちゃんのとこ行く?」