【完】黒薔薇の渇愛
「もうこんなことはしないようにね~、岡本奏子くん」
「はい……!」
だけど私がいくら弱って泣いたって
この人たちは待ってくれない。
時間が進んでいくのと同じで、勝手に話を進めていくんだから……私の気持ちなんて関係ないも同然。
ズザァ……と、靴を擦りコンクリートに混じった砂を鳴らして、桜木が私に顔を向けると。
ひょいっと、しゃがみこむ。
そしてジッと、なにも言わず見つめてくるから
またキスされるんじゃないかと怯えて言葉がでてこない。
震えだした体は本気で桜木を怖いと叫んでる。
だけど……。
ーーパサッと頭に何かが掛けられた。
月明かりの薄暗さに慣れた視界が、急激に目の前を真っ暗にし。
掛けられたそれが桜木のジャケットだってことを、数秒で知る。
「なん……で……?」
優しくされる覚えなんかない。
ていうかこれは優しさなんだろうか。
さっきまで着ていた桜木の温もりがひどく安心感と混乱を呼ぶ。