【完】黒薔薇の渇愛




けど、他人は情けとか人間らしさとか、よくわかんねーことで

俺の言うことは聞けないくせに、俺のことを思い通りにしようとする。



「今日もね、ご近所さんに言われたの」



学校から帰ってくるといつも、キッチンで料理をしている母がブツブツと俺に話しかける。



「『桜木さん家の息子さん、なに考えてるか分からない』って。」


「……ふーん」


「『この前も、目の前で転んだ子供助けずに通りすぎていったって。
 一体どんな教育したらあんな薄情な子に育つんでしょうね』って文句まで言われた」


「……へぇー」


「学校の先生からも、嫌み言われるし。ご近所付き合いも悪くなるし……桔梗は何がしたいのよ一体」


「別に、なにもしたくないよ」


「……っ、そういう態度が皆をイライラさせてるの、どうして分かろうとしないの!?
 自分だけが良ければいいなんて思っちゃ、ダメでしょ……っ!!」


「……」



別にそんなこと思ってないけど。


これ以上口を開くと、お母さんを余計怒らせることを知っている。


人の気持ちが読めない訳じゃない。


自分の身内は俺だって大切だから
お母さんやお父さんの言うことだけは素直に聞ける。



でもそれだけじゃ、ダメだったか。



母は元々メンタルが弱い人で、人の言うことを人一倍気にするところがある。


だから俺のことをああもハッキリ言われると
病み始めるのがいつものこと。



そんなお母さんに俺はいつも。



「……次からは、こういうことないようにする。」


目の前で子供が転んだら助ければいい。


言われたことだけは、ちゃんとやろうと思う。


言われるまで、自分が変だなんて気づかないから。


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