【完】黒薔薇の渇愛
答えない。
返ってくるのは無言だけ。
夜中だというのに、まだ降り続けている雨が、俺とお母さんの間に割って入ってくる。
ザァーザァー、ザァーザァーうるさい。
ずっとうるさいまま、他のすべての音を掻き消してくれればいいのに。
「き……きょう」
「なに」
「お父さんね……おとうさ、ん」
「うん」
ごくりと唾を飲む母の目は腫れていた。
俺が留守番している間、ずっとひとりで泣いていたんだ。
「お母さん、どうして泣いてるの」
「……っ……っ」
「誰かに泣かされたの?」
「お父さんが……っ」
「お父さんが悪いことしたの?」
勢いよく首を横に振るお母さんの、泣き顔はひどく。
噛み締められた下唇の皮が剥げていた。
沈黙が怖い。
何を告げられるか分からないから。
お母さんはギュッと俺を抱きしめ、震える声で告げる。
「お父さん、死んじゃった」