【完】黒薔薇の渇愛





一週間経って、ようやく気がついた。


お父さんは……本当にいなくなってしまったことに。


「……っ」


家の中は暗くて、息苦しくて、取り戻せない日常の変化に身体が追い付いてきたとき。



泣いてしまった。


その時どれほど虚しさが押し寄せてきたことか。


あんなに苦しい思いをしたのは初めてだったから
甘え方が分からない。


テレビだけが付いている真っ暗なリビングで、母は項垂れている。


「お母さ……ん」


寂しくて、頼る人はこの人しかいないと思った。


お父さんへの悲しみを共有できるのはお母さんしかいないと……思っていたのに。


こっちを振り向くお母さんの顔をテレビの明かりだけが照らしている。


そして、泣いている俺に。



「嘘つき」


「……えっ?」


「今更泣いている振りができるなんて、桔梗はほんと悪い子ね」


「なに言って……」


「桔梗は、人の気持ちなんか分からないんだから、お父さんが死んだって悲しくもなんともないでしょ。」



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