【完】黒薔薇の渇愛
ひどい言葉を浴びせている自覚もなく、お母さんの目は放送休止のテレビ画面に戻される。
パキッと、心にヒビが入っていく音が聞こえた。
なんでそんな事が平気で言えるんだ。
俺だって家族を失ったのに。
こんなに哀しいのに。
結局誰も最後まで、俺の気持ちを理解しようとしない。
「……」
泣くのすら馬鹿馬鹿しくなった。
母のたった一言で、唯一あった自分の感情が死んでいく様に感じた。
もういい。
どうでもいい。
どうせ何したって冷たい目を向けられるなら
自由に生きた方がマシだと思う。
「ひとりで泣いてろよ」
サラサラの髪で腕を隠し、項垂れている母の姿は悲劇のヒロインに見えて。
人形の様に、微動だにしない母に皮肉だけを残して俺は夜の街に飛び出した。
中学二年生、夏。
素行が荒くなったのはその時期からだった。