【完】黒薔薇の渇愛






桜木を叩いた手が震える。


タンッと、わざとらしく足音を鳴らして目の前にやってくる桜木の圧がすごい。


思わず顔を下に向ければ、彼の指先が私の頬に触れた。



「俺のこと叩くなんていい度胸じゃん。」


「……」


「やられたら、きっちりやり返すのが俺の主義でして……。
 まあそもそも、やられる前にやるんだけどさ。
 これはちょっと予想外と言いますか。」


「……っ」


「さてさて……どんなひどい事したら君は可愛く鳴いてくれるかな?」


私の頬を撫でる桜木の手。


ひどく冷たく、温もりさえ感じられない。


「やっ……だ」


「……は?」


「やだってば……っ!!」



記憶の奥底がフラッシュバックした。


あの日から今日まで奏子が隣にいたから
奏子が私の心を支えてくれたから、ある程度強くいられた。


だけど今は私を支えてくれるものが何ひとつとしてない。


信頼していた奏子への思いが。

掌にあったはずの輝きが。


音もなく消えていく。




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