【完】黒薔薇の渇愛
すぐにハッと我に返る桜木は、言いかけた言葉の後味だけを残して息を吐く。
「……ごめん、天音ちゃん」
「……さくらぎ」
「頭に血がのぼった。
家まで送る」
「……病院行かなきゃ」
「ダメ。もしかしたらまたあいつらに襲われちゃうかもしれないから。
今日はもう家に帰って」
「でも……」
「心配させてよ」
「……へっ?」
「天音ちゃんのことだけは、心配させて。」
卑怯だ。
そんなこと好きな人から言われたら、言うこときいちゃうに決まってる。
バイクの後ろに再び跨がり、それからはふたり無言だった。
家の前に着くと桜木は申し訳なさそうな顔で私を見る。
「どうして……私が居るとこ分かったの?」
「学校帰りで病院行くなら、この道通るだろうなと思って。
通話、いきなり切れるから心配した。
焦って逢美の力使っちゃうし、余裕ないねー俺も」
「……ありがとう」
「天音ちゃんが礼を言う必要はないよ。
元はと言えば俺のせいなんだから」