【完】黒薔薇の渇愛
これ以上の不幸はないと、夜は毎日枕に顔を押し付け声を殺して泣いていた。
だけど、漏れた嗚咽が隣の部屋にいたお兄ちゃんには聞こえていたらしい。
ある日、ーーコンコンと部屋をノックされる。
泣き疲れてきっと腫れてしまっている目で、家族に顔を合わせることなんてできなかったから
そのままベッドに転がったまま寝た振りを続けると。
「なにかあったら兄ちゃんが助けてやるから。
言えよ」
と、扉越しで呟く兄。
お兄ちゃんはいつだって私のヒーローだった。
幼い頃、どんなところへ行くにもお兄ちゃんを連れていったし、お兄ちゃんについていった。
兄は嫌な顔せずに面倒を見てくれた。
両親より、お兄ちゃんの方が私を可愛がってくれたくらい、お兄ちゃんはずっと私の事を気にかけてくれていた。
私とは違って人付き合いが上手く
明るくて少しお調子者で、自慢のお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんとも、私が思春期真っ只中の頃にあまり話さなくなってしまって。
どんどん口数も減っていき、今じゃ同じ家にいても顔を合わせるのも片手で数えられる程度。
それなのに、今だって昔のように心配してくれるお兄ちゃん。
久しぶりに人に優しくされて、私の頬にはまた熱い涙が伝う。
けど甘え方を忘れてしまった私は、返事ができずに
そのまま眠りについてしまった。