【完】黒薔薇の渇愛
「ふーん、優しくて強くて弱い人を放ってはおけないヒーロー……ねぇ……」
桜木が目を伏せると、長い睫が影を作り、彼を妖美に見せる。
一瞬、不覚にもドキッとしてしまう。
騙されてはいけない。
桜木の顔は確かに綺麗だけど……女の私にすら容赦しない最低な人なんだから。
いつ牙を向けるか分からない。
それに今はふたりっきり。
こんな危ない状況から早く抜け出さなきゃ。
兄のことを語ってる場合じゃなかったと、足を一歩踏み出したとき。
「優しい人って脆いよね。
優しくておいて……自分自身が壊れたら、人のこと置いてどこかへ行っちゃう」
桜木の言葉に、勢いよく振り向く。
けど彼は、私の過剰な反応なんかお構いなしに口を開き続けた。
「ねえ……それって本当に優しさって呼ぶのかな。
ただの自己満なんじゃないの」